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「害虫防除の常識」   (目次へ)

.害虫の発生状況の調査法と予測法

 7) 有効積算温度と気温によって、害虫の発生についてどんなことが分かるのか?

稲の害虫、イネミズゾウムシの発生と行動の事例について

 これまで有効積算温度の法則による害虫の発生時期の予測法について述べてきた。筆者は、かつて、イネミズゾウムシの発生時期の予測と行動について研究したが、温度反応として分かったことは次の通りである。

(1)越冬世代成虫は、水田に侵入してくる前に、雑木林などの越冬場所に生えているイネ科雑草を摂食するが、摂食している成虫数がその場所にいる全体の成虫数の何%であるのかを予測した。また、摂食すると次第に飛翔筋が発達し、一定のサイズまで発達した飛翔筋を持つ成虫は逐次、越冬場所を飛翔して離脱するので、摂食開始個体率から飛翔離脱個体率を差し引くことによって、雑木林内で摂食している現存個体率もシミュレーション(コンピュータ上の計算)によって求めることができた。実際に、雑木林内で見取り調査を行ったデータと、気温条件を組み入れてシミュレーションした結果とはよく合致していた。(上の写真:イネの葉を摂食中のイネミズゾウムシ成虫;成虫の体長は約5mm

(2)越冬世代成虫がイネ科雑草の葉を摂食すると飛翔筋が発達してきて、その太さも有効積算温度で予測できる。

(3)イネミズゾウムシ成虫は、飛翔筋が一定の太さにまで発達すると飛翔を開始するが、有効積算温度でその時期を予測できる。越冬世代成虫は夕方になると飛翔行動を行うが、気温が20℃以下になると飛翔しにくくなる。

(4)成虫が飛翔するようになると、一斉に水田の中に移動分散するので、水田内の成虫の分布がほぼ均一になる時期を予測できる。

(5)屋上のポールに吊したウンカ用のネットトラップ(直径1m)で、イネミズゾウムシの飛翔成虫を捕獲することができる。捕獲数の推移を調べると、50%の成虫が飛翔可能になる予測日(夕方の飛翔時刻の気温を考慮に入れる)までの累積捕獲数から、当該年度のイネミズゾウムシの発生量の相対的な多寡を、50%成虫飛翔日の時点で予測できる。
(6)飛翔可能個体率が60%になる時が、成虫防除剤の散布適期である(武田,1994)















(7)水田内で成虫が水面上の稲葉に留まっているのは気温が高い時であり、気温が低下してくると水中に潜る。従って、水面上の成虫の見取り調査は、気温が20℃以上の日中に行うとよい。(下の写真:水田に侵入したイネミズゾウムシ成虫がイネの苗の葉を摂食し、一部の葉が枯れている
 以上のように、イネミズゾウムシ成虫の発生時期や雑草やイネ上での行動、飛翔の時期、行動などが、温度依存的な反応として捉えられるということは、たいへん興味深い。
 
 イネミズゾウムシ以外の害虫についても、有効積算温度や気温が害虫の発生時期や行動に大きく影響していることがあるので、個々の害虫の生態をよく観察し、研究してみると面白い。 
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